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どこかのだれかのものがたり。
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 幼いころからピアノと楽譜とベッドしかない部屋で育った少年がいました。
 彼に許されたプライバシーは、眠ることと考えること、楽譜を読むこと、ピアノを弾くこと、そして痛みが襲ったときの休息だけでした。
 彼は朝から晩までピアノを弾きました。ミスタッチはなくなっていました。痛みが襲ってくることもなくなりました。ところどころが黒く変色した白鍵も、彼は弾きこなしました。
 彼がひとつの曲を飽きるほど弾いたころ、「誰か」が部屋に訪れ、彼に新しい楽譜を与えました。
 そしてまた新たな曲を奏でる、そんな日々が延々と続きました。

 ハンマーの打弦回数の桁さえ数え切れなくなったころ、「誰か」が新しい楽譜を与えに訪れることはなくなりました。
 彼はそれまでに渡された楽譜の音を繰り返し、それもいつしか飽きました。
 負の感情をぶつけながら、彼は鍵盤を押していました。
 ふとしたとき、彼は違う鍵盤を押していました。
 今までの記憶にない音。どの曲とも違う曲。
 彼はいつしかそれに夢中になりました。
 楽譜が自分の中から生まれてくることが、なによりも不可思議で楽しい。
 彼はそれまで以上に目の前の鍵盤に没頭しました。
 いつしか黒となる赤を、あるときは白鍵のところどころに垂らし、またあるときは楽譜の裏面に乗せ、新たな楽譜を描きました。
 痛みすらも彼方、彼は音楽を奏でました。

 彼が遺した曲は、完璧でした。
 歴史に残る大音楽家が遺したそれさえも凌駕するものでした。
 しかし、彼が遺した曲は、世界のどこにも遺されていないのです。

 彼の音楽は、完璧だったのです。
 完璧であるということは、それだけで完結しているということ。
 彼の音楽は、聴き手の存在を必要としなかったのです。
 彼の曲は自らの内で曲を生み、自らの手で曲を奏でることで完成していたのです。
 他の要素の一切を排除した完璧な音楽だったのです。

 彼の音楽は、完璧だったのです。
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